あの超話題作をようやく鑑賞
あらすじ
会津若松の武士である高坂新左衛門は、藩からの命令で長州藩の山形彦九郎の殺害を企てる。いざ山形と対峙し戦闘が始まると、落雷が落ち高坂は現代にタイムスリップしてしまう。深い眠りから目覚めるとそこは京都にある時代劇撮影所であった。
現代に戸惑いつつも時代劇撮影所という利点を生かし、チャンバラシーンでの切られ役に活路を見出していく。
感想
こんなに追い風しか吹かない映画もなかなかない
物語って主人公に向かい風が必ず吹くじゃないですか。主人公は何か目的があって突き進むが、そこに障害が立ちはだかり、逆境をどう解決していくか。そのために悪役が居たりアクシデントが起きたりする。結果として推進力のある120分の起承転結が完成する。
この映画は「タイムスリップして現代に飛ばされた侍」ということ以外いっさい逆風がありません。悪役も別の困難もない。そこがとっても潔い。なのに面白い。
映画が始まってすぐタイムスリップするんだけど、そのあと自分の居場所を見つけるまでを長めに取っている。しかもこの映画の想定される雰囲気よりも悲しく重めに。「急に現代に飛ばされてどうしたらいいねん」って映像を、悲しめの演技と音楽で救いがなさそうに描く。なんでこんなに悲しい感じなんだろって思ったけど、ここでこの映画の長めの悲しさ成分は全て出し切ってるわ。
寺に居候させてもらって、撮影所コミュニティに馴染んで以降はトントン拍子。関わる人も全員優しくて、邪魔する奴もいない。主人公の高坂自身の努力描写も多いから、成功に納得感もある。映画の終わりまで右肩上がりの直線を描くストーリーで、映画って実はこのぐらい悪いことが起きなくてもいいんだと、新しい観点を与えてくれる。
ストーリーが進んでも出てくる向かい風は、ただのチンピラと戊辰戦争情報だけだもの。こんなに脅威的な存在が出てこないことある?
ライバルと思いきや父親
完全にネタバレ感想ですが、タイムスリップ時に戦っていた山形さんも実は現代に来ています。ただ同じタイミングで雷に打たれたはずなのに、主人公より30年前の現代に来ていたという設定がお見事でした。これがでっかい追い風。
昔は殺さないといけない相手で、現代の主人公もその正体に気づいたときに「お前か!じゃあ殺さなくちゃ」って感じなんだけど、それを山形さんが「まぁまぁ」っていなしてくる。
殺陣の師匠(ヨーダみたいな立ち位置)は別でいるんだけど、昔の宿敵 山形さんも現代では30年先輩のまるで師匠。見たことないけどウルトラの父のような立ち振る舞い。
この割り切った設定がさらにストーリーから悪役を消していて、なんとさっぱりした味付けの映画なんでしょう。飲み込みやすい。これだけ飲み込みやすい設計なのに、ちゃんと飽きさせない話の面白さを確保しているのがすごいわ。
どこまでいっても侍をくずさない
じゃあ何も起こらない順風満帆映画かというとそうじゃない。それじゃあ本当に抵抗のない記憶にも残らない水映画になっちゃう。
この映画は徹底的に「急に現代に飛ばされて侍」を崩さない。最初から最後までその一点のみを重石にし続けている。
タイムスリップ直後一通り現代に驚くのは当たり前だけど、現代での自分の居場所を確立してステップアップしつづけても、侍であり続ける。ずっと侍時代の話し方だし、ビールは飲まないし、決して現代人と同化しない。
中盤でようやく散髪したシーンは現代になじんだ感を演出していて、ここから潮目の変化を予感させたんだけど、いい意味で変わらなかった。
映画の予告編からエンディングまで一つのポイントを貫き続けて、それ以外は幸せな展開ってのがこの映画ですよ。
まとめ
「肩肘張らずに安心して楽しめる邦画」って意味ではこれ以上ない完成度なんじゃないか。
日本で作る意義があって、下ネタや変なギャグ、お涙頂戴展開や難解さとは真逆にいるのに、しっかりと最大公約数的な面白さが担保されてる。
よかったですよ。これがじわじわ中身で話題になって日本アカデミー賞とるのは納得です。
採点 79点
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