※何も考慮せず言いたいことを言ってます。そのためネタバレを多く含みます。
この映画、妻が一足先に観ていて、感想を聞こうとしたんだけど「とにかく観ろ。映画館で」と言われたので、話題に押されて観ました。
感想
身体痛いし心痛い
本当に疲れました。心が泣き疲れたのと、帰りの階段で膝痛いです。3時間圧倒されっぱなしで、足を動かせなかった結果です。
歌舞伎シーン見たことないけど、歌舞伎シーンで勝手に涙が流れます。ということは良い映画です。知能的な理解を超えて身体が喰らってました。
凄い映画なんだけど、凄すぎてもう2度と観たくないです。マーティンスコセッシの『沈黙』を見た時のような気持ち。本当に素晴らしい映画です。それは間違いない。観たことに1ミリの後悔もないし、1900円前後のコストでは見合わない映画体験。というか歌舞伎体験。というか人生体験。
でもね、脚本撮影演技含め上手すぎる描き方で、つらい人生をより鋭く提示されもうグッタリですよ。普通に生きてたら味わえない世界を最高峰の形で体験できるんだから、最高の娯楽ですよ。この映画体験は。でも辛すぎてもはや娯楽ではない。
1つの成功の対価は、その他すべて
この映画はずっとつらい。サクセスストーリーのはずなのに、1つの幸せしか手に入らない、そしてその1つ以外がズタボロになっていく。主人公の周辺で、罪を犯していない人が罰を受けていく。その演出がほんまにつらい。
スタートから主人公は全てをぶっ壊されているんだけど、唯一持っているのが女形の才能。たまたまその才能を発見されて、それだけを元手に大阪の歌舞伎の師匠の家に向かう。そこで師匠の息子と二人で日々鍛錬していく。
主人公が「才能」という唯一の持ち物を一所懸命磨いていると、その他の登場人物はどんどん不幸になります。どんどん死にます。デスゲームかファイナルデスティネーションかってぐらい。主人公に悪意がないのに、みんなに責められて、どんどん主人公も病んでいく。観ている全員が思っただろうけど、悪い見物客にボコボコにされて、半分落ちたメイクのままウイスキーを流し込みながら屋上で踊るさまは完全にジョーカーでしたね。
なんでこんなことが起きてしまうのか。そんな世界おかしいでしょどこがリアルやねんって思いたいですが、それが梨園ということなんでしょう。それが血統主義の世界に実力だけで抗う天才ということなんでしょう。
その大事そうに磨いている芸って本物?
ただこの映画の悲しいところは、主人公が磨き続けている「実力」ですが、その「実力」を磨き切った先にあるものが幸せそうじゃないところ。
師匠も「お前には実力以外ないから、何かあったら実力でやりかえせ」と言い旅立ちます。主人公も日々鍛錬を重ね、自分の実力にプライドを持っています。
主人公の師匠とは次元が違う最強キャラが映画序盤から出てきます。女形で人間国宝認定されており明らかに梨園最強。しかも最初から主人公の現在と未来を見切っているような言動で、こいつぁ強えぞって抜群の存在感を発揮しています。そんな梨園の五条悟ですが、「実力は最強」って世間から認められているのに実力以外なにもない状態でフェードアウトします。3畳ほどのぼろ宿で一人病床に伏してます。悲しいほど質素な人生の終着点です。
えっ?主人公も師匠も実力で戦うしかねぇって頑張った結果様々な代償が周囲で支払われているのに、実力を極めし者の末路それ?なんだったんこの人生。長崎で暴力団の息子に生まれた時点で終わりだったん?って感じです。それこそ世の中すべてが血統主義やんって。
ただ最後に主人公が梨園に戻ってこられるのは、磨き上げた実力を五条悟に認められたから。最強が認めた実力だから、血統やスキャンダルを乗り越えられる。そうして行われる演目をぐーーと映してくれます。歌舞伎なんて見たことないし、うまいのか下手なのかわからない。でもそこまでの展開から突き刺さってくるものがありました。これが映画体験。ありがとう中性的な人間国宝の五条悟。
幸せになりたければ飲む打つ買うの役者はやめておこう
「美容師・バンドマン・バーテンダー」は、関わったら幸せなれない男の職業に良く挙げられますが、役者も仲間入りです。役者の個体数が少ないからエントリーされていないだけで、もうちょっと繁殖していて頭文字がBだったら3Bじゃなくて4Bでした。
出てくる女性はみんな幸せそうじゃないです。そりゃあ男性が“芸“しか磨いてないから。愛や家族を磨いてない。もちろん兄弟弟子との愛は育まれていました。”芸”を一緒に磨いているときに、副次的に育まれているから。この兄弟愛は、歳月を超えても最高でした。
ただ芸事に携わる男と関わっちゃダメですよ女性のみなさん。何かにつけて「芸の肥やし」との免罪符が付きますが、それだけ恋愛が男側にしかメリットないんです。女性側は食い物にされるだけ。本当にむかつきました。森七菜ちゃんかわいかったなぁ。かわいそうだったなぁ。途中でてきたダイナーみたいなところ、日本とは思えない雰囲気の良さだったなぁ。行ってみたいなぁ。
最後に出てくる芸者の娘さんなんて、あんなに恨んでるのにその“芸”の前では恨み切れないんだって。もうおそらくあの子は父性を求めて歪んだ恋愛ばかりの人生ですよ。かわいそうに。主人公が生んだカルマを背負わされています。すべては芸者のおかあちゃんが悪いからね。この映画を見ていると主人公を責める気にならないので、おかあちゃんの選択を恨みます。吉沢亮の顔面相手でも負けたほうが悪いわ。
ちなみに今作出てきた女性で一番かわいいのは芸者のおかあちゃんです。
まとめ
「芸を極めるってその他すべてを犠牲にする必要がある。」そんなどこかで聞いたことがありそうな内容を吉沢亮の顔面が教えてくれます。ってことは芸事を志している人と結ばれて、一般的な幸せを得ようとしているほうが罪人ということです。また、芸事道を進んでいるにもかかわらず一般的な幸せを得ようとした人は、芸事レベルが低下するということです。(結婚した芸人がつまらなくなるのは、単純な加齢に加えてこの作用も強いんですね)
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』を思い出しました。あっちは石油と金のために他全てを犠牲にしていましたが、今回は”芸”でした。あっちは大嫌いな映画ですが、本作はお勧めできます。
採点82点
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