7月21日 キノシネマ立川
映画の感想に入る前に一言。キノシネマ立川すごかった。過去2~3回ぐらい来たことあるんだけど、今回のシアター3番が凄いところでした。
『教皇選挙』がもう公開から時間が経っていることもあり、上映は一番小さいシアター3番で座席数は27席。しかも2列目中央から何列かは+700円の特別料金。今回映画に間に合うか微妙だったので、窓口で買おうとしたら+700円シートか最前列しか空いてない。
入場前は「なにそのずるいやり方してんねん。そのせいでシアターの一番いいとこ空いてるじゃん」って怒っていたんだけど、入場してみてびっくり。最前列とかの通常料金席含めて、全席スーパーふかふかシート。しかも電動リクライニング&テーブル付き。他の映画館じゃ全座席を追加料金にするところを、ご厚意で見づらい席は通常料金で提供してくれてるのね。木下グループが大好きになりました。会員になろうかな。常に1300円らしいし。

↑シアター3の座席表

↑これの最前一番右で観ました。応接室の椅子でした。すっごいパーソナルスペースの広さ。
ネタバレ感想
聖職者のトップになるべき人間とは
キリスト教のトップである教皇が死亡し、枢機卿とよばれる各地のお偉な方々を100人以上集めて、次期教皇を決める選挙(コンクラーベ)を行う映画。
キリスト教なんて世界最大のデカさの組織なわけで、それぞれの土地で一生懸命やっている枢機卿が大量に集まったら、教会をどうすべきか政治的な考えが多種多様すぎてまとまりません。
とはいえ全員キリスト教を信仰している同じ旗本の同志なので「キリスト教のトップであう教皇はこうあるべきだ」という共通認識的なものはあります。選挙開始直後はそんな共通認識の元、「教皇になるのは本命あいつか、対抗あいつかなぁ」という薄っすらした雰囲気に覆われています。
映画が進むにつれて、主要な候補者全員が”人間”としての汚点が1個づつ白昼の元に晒されていきます。でも少しよ。個数で数えるものじゃないけど、数えるなら1個。にもかかわらず、1個見つかると一気に得票数がガタ落ち。それだけ教皇って、完璧人間にやってほしい。
でも、そんな聖人君主が枢機卿にはいない。キリスト教のトップ層のお偉が100人集まっても居ない。
主人公は選挙管理代表者として選挙から一歩引いたところにいるんだけど、選挙開始時のスピーチで「これからの教皇は、自分のミスも認めつつ前進するやつが良いんじゃね?」って教皇のハードルを下げようと投げかける。ただその時点ではみんなに「何言ってんねん。そんな教皇で良いわけないだろ」って感じなんだけど、蓋を開けるとそんなやついません。で、どうするかという映画です。
ネタバレ:ベニテスとかいう新人候補
今回のコンクラーベから枢機卿となった新人ベニテス。アフガニスタンとかで活動しているらしく、教皇が死ぬ前に駆け込み登録され、全員が存在を知らなかったが、選挙直前に自己紹介をして会合初参加となる。
ずっと謎の存在なんだけど、コンクラーベという閉ざされた空間の中で、主人公を推し続けてくれる。主人公自身は「まじで教皇なりたくないので、というか立候補してないから」と言い続けてるんだけど、泡沫枢機卿として会合全体を冷静に見続けた結果、主人公が教皇になるべきだと。
教皇選挙は外部とのやり取りを遮断し、1人の候補者に一定の票が集まるまで、半ば施設に監禁し投票を行い続ける。窓やカーテンを閉め切り、スマホPCも没収なので外の情勢を知る術もない。そんな閉鎖空間は、凝り固まった教会そのもの。秘密主義・選民主義で内向け政治ごっこをしている。
選挙が長引いていると、敷地外でテロが発生する。しかも世界各地で同時多発で起きており、死者も多数出ている。その爆風で選挙会場の窓も割れて、久しぶりに風が入ってくる。外部の力で無理やり入ってきた新たな風。
テロの影響で枢機卿軍団もいったん避難。シアターホールに雑に集合して、座談会的な雰囲気に。そこでこれまで発言のなかったベニテスが一歩引いた所感を述べる。枢機卿みんなが選挙後半でうっすら感じていたが言えなかったこと。ベニテスは新参だから言える。これを言えることこそ、聖人君主な教皇に適任じゃないか。その結果急に当選してしまいます。
ベニテスという外部の力で入り込んできた新たな風。そんな風に教会を任せて、キリスト教が変わらないといけないんじゃないか。そんな期待感で謎の救世主にキリスト教を預ける。
そんなベニテスが名乗った教皇名が「インノケンティウス」
ラテン語で「無罪、無邪気、純粋」という意味らしい。
そんなことを名乗っているベニテスの抱える1個のミス。ベニテスだって抱えています。ミスとは言いたくないが、教皇にとっての罪。それを知った主人公は、飲み込みます。自分のスピーチを曲げずに。
音と顔の映画
序盤から音がうるさい。これは音量がとかじゃなく、環境音のノイズを乗せる演出が上手いんです。
環境音なので世界に普通に存在している音。ヘリだったり工事だったり、走行中の車が何かを乗り越える音とか。そんなん普通の音で、普段はなんにも感じないんだけど、映画序盤の「これは全員何か含みを持っているぞ」という怪しさに対するアラームになっている。怪しいぃ雰囲気を、普段なら気にならない環境音を、とっても粒立ててストレスフルな形で映像に乗せてくる。この演出が素晴らしいなって。
画面とかセリフ内容とかで直接的に怪しさを押し付けてくるわけじゃなく、普通の世の中にノイズが走る。明らかに怪しいこと起きているよ!って肌で感じさせる選挙前の運び方が秀逸でした。
そのうえで、演者の顔。ぐぐっと寄って、とおもったら引いて。セリフじゃない部分での怪しさと、観客の引き込み方がうますぎる。なにも起きていないのに緊張感がずっと続く。もうね疲れちゃう。
環境と衣装が上品すぎる
そんな怪しさ満点の演出の土台になっているのが、舞台の上品さ。
本物なのかな?登場する場所が美しすぎる。選挙で監禁されているから普通の場所が出てこず、 ずっとガチ教会。かっこいい広場の角だと、枢機卿たちが手持無沙汰で煙草を吸っているだけで画になる。宿泊部屋の廊下の突き当りすらかっこいいから、ひっそり密談シーンも見続けられる。池周辺も上品だから、脱走したカメが歩いているだけで、キリスト教の神の使いのような神々しさを感じる。
衣装も本物でしょ。あの頭にちょこんと乗せている赤蓋帽も、よく見たらちょっと面白いはずなのに、重みを感じてちゃかせない。軽い素材っぽいのに。
まとめ
キリスト教の知識ゼロなので、いろんなことが散りばめられているんでしょうけど、全くわかりません。そんな人間でも楽しめる「上品で下品な政治ドラマ」でした。配信でも楽しめるので、ぜひどうぞ。
採点 70点
コメント