【ネタバレ感想】HANA-BI

映画紹介~ジャンル別~

ずっと観たかったんですが、配信されてないし、近くのツタヤはつぶれて困っていました。途方に暮れていましたが、子供の絵本を借りに行った図書館で見つけて、ようやく味わえました。

あらすじ

刑事・西(ビートたけし)は、余命わずかな妻・美幸の看護に追われながらも、かつての同僚・堀部が張り込み中に凶悪犯に撃たれ、下半身不随になる事件に直面する。部下の死や同僚の苦痛を目の当たりにした西は、自分自身の存在意義や暴力の刃に苦しみ、警察を辞め、ヤクザから借金し、強盗に手を染め、妻との最後の逃避行へと向かう。愛と死、絶望と赦しが交錯する北野武監督による、人間の静かな狂気と再生を描く名作。

感想

シリンダーに弾を込める姿から愛が伝わってくる映画

主人公の西が、人生の最後に向けて何をするのか。その一挙手一投足に釘付けでした。ほとんどしゃべらず終始無口で、強くてすぐ人を殺めます。それだけ聞くと心の機微も動機も伝わってこないサイコパス野郎に思えますが、北野武演じる主人公は不思議とそんなことがない。そこに強い魅力を感じました。

主人公のやってることは酷いですよ。他の映画の世界だったら、殺しのライセンスが必要なことやってる。じゃないと死刑か、死刑制度導入していない国で懲役200年みたいなことばっかり起こします。なんだけど、なぜ目の前の人を殺すのか。顔も声も変わらないのにその理由がひしひしと伝わってくる。

映画始まってしばらくは「なんだこの話」と、微妙なギャグとつかみどころのない展開に正直困惑気味でした。そのまま観ていると、だんだんと主人公の見えない情緒が画面越しに伝播してくる。言葉や動きではない部分で伝わってくる動機こそが「愛」なんだと。愛を原動力にこの映画が進んでいるんだと思わされてから、この映画に頭からつま先までどっぷり入ってしまいました。

人生に終わりを付けるかっこよさ

愛が原動力の映画ですが、向かう先は人生の終幕です。

命を奪うことに愛を重ねる展開ってベタではあると思います。「敵に殺されるなら、お前が終わりにしてくれ」とか「未知の生物に喰われるなら、家族を殺して自分も死のう」とか。今作はその最高峰。

妻のために準備して銀行強盗もするし、旅行中も強くて優しい。そんな男が最後に見せる男の決断。ラストシーンの天候も少女もなんとも爽やかなのが、この映画の主張なのかなって。

死=悪いことでないと。黙っていてもいつかは訪れるし、劇中ではたくさんの突発的な人生の終わりが出てくる。主人公はあんなに荒くれものだけど、きわめて純粋な動機で動いていることは一緒に旅をしてきた観客はわかっている。

その結果訪れる銃声2発に、涙が止まりませんでした。なんと優しくて乾いた音なんだろうと。

ずっとある罪悪感や無力感

劇中ずっと観客の心は晴れません。というのも、全員に閉塞感や虚無感だ漂っています。はっきり言うと、幸せな人が一人もいないんです。嬉しいこと楽しいことはほぼ起きません。

主人公は、関わる人間をだれも助けられていない罪悪感や無力感に包まれています。妻も、子供も。親友のデカも自分のせいで人生がめちゃくちゃになり自殺未遂までしちゃう。いろんな人が死に、残された人への贖罪を行っておりますが、結局だれのことも絶望から救えない無力感。あんなに強いのに。

なので登場人物は全員悲しい顔をしています。世の中は重く暗い世界です。

そんな世界でも、純粋な笑顔を見せてくれる人がいます。ラストシーンの少女(ぽっと出)と、もう1人。それが主人公と旅行中の妻です。この笑顔にやられました。

妻も病に侵されていて、もう先が短いと病院から匙を投げられています。置かれている立場としては、もう人生閉じてます。そんな妻と主人公が見せる、旅先でのじゃれあいと、岸本加世子の心底の笑顔。

だれも長期的に見れば幸せじゃないし、終わりへ確実に向かっているんだけど、ようやく笑えたんだと。こう思い出して書いているだけで泣けてきます。車の中でのトランプのシーンぜひ観て下さい。

誰のせいにもできない、順風満帆ではない現実で何をするのか

本当に悲しい映画です。さっきも言いまいしたが、全員不幸です。

でもそんな状況で何をするのか。何を原動力に何を求めて、どこに向かおうとするのか。

今まで一番かっこいいい日本人は『容疑者Xの献身』の福山雅治でしたが、今作の北野武が超えました。雪山でのシーン見てください。

この映画を売るのは難しい

DVDで借りた時って、メニューで予告編があることが多く、本編の鑑賞前後に確認するのが好きです。どんな映画なんだろ?本編のどこを使ってるんだろ?って楽しみます。

今作の予告編は、何も伝えていませんでした。キャストと、金獅子賞ってことぐらい。本編を観てみて、これは予告編つくるの難しいなって。というか広告のしようがなく、これは興行収入難しいですよ。

核心に触れずに、この映画をどう魅力的に紹介するか。私にはわかりません。

まとめ

これはすごいですね。映画だなって。まさに「言葉じゃなく、主人公の生き様」で見せてくる。主人公を知って2時間も経過してないのに、心が共鳴しちゃってしちゃって。すこし時間を置いて、また西を観ます。

採点 93点

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